生と死を行き来する、慎ましくも豊饒な記憶の物語

一瞬、時制が混濁するようなタイトルに攪乱され、読者は宙ぶらりんのまま小説世界におずおずと入ってゆくことになる。  ユキコさんと平山は、十二歳離れた夫婦だ。結婚当初は母親と息子に間違われたけれど、ユキコさんが七十を越えたあたりから外見上の差は薄らいだ。平山には、ずっと若々しかった年上の妻の心身の衰えが気にかかるが、もちろん自身の老いも自覚している。どっちが先にいなくなってもおかしくはない、終わりの予

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