【歴史小説】「森 鷗外です──」明治21年、10月の出来事

序章 明治二十一年(西暦一八八八年)十月 「森 鷗外(おうがい)です──」 森は酌をしながら、気恥ずかしそうに答えた。 「鷗外?」 万(まん)条(じょう)が訊き返すと、森は色紙に、万年筆ですらすらと書いて見せてくれた。 「はい、こんな字です」 「でも、どうしてそんな筆名にしたんだ?」 横から大御門(おおみかど)が、興味深そうに尋ねた。その隙に、仲居は鍋を炭火の上に置き、手早く支度を調えて行った。

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