作家・川上弘美が「こんな小説を書いてみたい」と思い続ける連作短篇の名作 2016/7/18 2016/8/9 文/川上弘美 町もの、と勝手に呼んでいるのだが、一つの町の中のさまざまな人たちについてのオムニバス形式の作品が、昔から好きだ。 最初に読んだ「町もの」が、この『ワインズバーグ・オハイオ』だった。アメリカはオハイオ州の架空の町ワインズバーグに暮らす人々についての、小さな物語の集まりである。 いわゆる華やぎのあるドラマチックな物語はほとんどないにもかかわらず、いや、むしろどちらかといえば陰鬱なエネルギ